茅か葦だろうか、随分と背の高い茎草が、
乾いた色合いで生い茂る原っぱを、
時折 素っ気ない風が吹き渡る。
目の先でゆらゆら踊る、茅の群れに気がついて立ち止まり。
薄手のダウンジャケットのフードを降ろせば、
その下から まだまだ若々しいすべらかな頬と、
明るい色合いの髪が現れて。
軽やかなくせっ毛が優しく揺らされ、
それで風に気づいたものか、
空を見上げた彼の口許が仄かに甘い微笑を浮かべれば。
背後の方から呼ぶ声がし、
そちらを肩越しに見やった彼へ、
小さな坊やがはしゃいで飛びつく。
お揃いのジャケットが、
なのに小さい子供には愛らしい印象。
淡い色合いの髪をした色白な坊やを、
ひょーいっと軽々抱き上げれば。
ますますのことはしゃいで見せるあどけない笑顔が、
優しい柔和な面差しの彼と、それはよく似合いの印象で。
ほんのりと霧が出て来たような湖畔か川端か、
寂しげな風情のする場だというに、
ほのぼの、暖かな空気が感じられて………。
「暑いっ。」
はいオッケーっと、
ぶっつけ本番の一発撮りでありながらも、
監督から上出来でしたとのお声をいただき。
現場の空気が さあっとゆるんだそのまま、
周囲にいたんですよな大勢の大人たちが、
それぞれにさわさわと動き出す。
ついでに、
垂れ込めていた霧もどきのドライアイスのガスも吹き飛ばされ、
セットの真ん中にいた主役二人は、
若者とお子様ならではな軽快な足取りで控室へ駆け込んで、
そうして…開口一番にぼやいたのが、
そりゃあ愛らしい、天使のような風貌だった坊やのほうと来れば、
もう皆様にもお判りですよね?(おいおい・笑)
「何で毎回毎回こういう順番で撮るんだろうな。」
本日の撮影は、桜庭春人主演ドラマのDVDの
特典ディスクにする映像…なのだが、
ついでに、いい構図のをピックアップして、
来年度カレンダーにも流用しちゃおうという腹積もりらしくって。
よって、何シーンかある中には、
秋や冬の風景もあった、何とも忙しい撮影会。
そしてそして、桜庭春人といえばのマスコット、
蛭魔さんチのヨウイチ坊やも
恒例の呼び出しを受けての参戦だったものの、
大人のいない、桜庭とだけの空間へ逃げ込んだ途端、
あっと言う間に 猫かぶりの毛皮までかなぐり捨ててる潔さ。
「秋冬のシーンはさ、
春先とかもっと早い時期に撮りゃいいじゃんか。
流行のファッションとやらだって、
よほどのスマッシュヒットや突発的なブームでない限り、
先に業界が決めるっていう話だそうだし。
そっちの関係者から情報引っ張って来て
いかにもそれらしい服を選べばいいだけのこったろうによ。」
「うあ、ヨウちゃんたら事情通。」
そちらさんはドイツでの合宿から帰国したばかりで、
よって、日本の猛暑にげんなりしつつの参加という身。
毒を吐く小さな悪魔様のご機嫌斜めっぷりに、
実のところは大賛同じゃああるのだが、
「確かにまあ、ドラマDVDへの特典なんだし。
このカレンダーがお目見えする時期に何がはやってるかなんて、
そこまで細かくこだわることもないんだけれどもね。」
大人たちの事情も判っているため、
ついつい肩をもってしまう桜庭であり。
「僕が、じゃなくて番組担当したスタイリストさんが、
それだと
先読み出来ないって思われるようで、
イヤだったんだろうさ。」
「ほほお。」
とはいえ、
他にもコレクションだの雑誌のコーナーだの
担当を山ほど抱えておいでのお人だったので。
結果、来年の流行とやらの情報を、
入手するのに手間取ってしまわれたらしく、
「それって
“先読み出来ない”のと どう違う現状なのやらだよな。」
「まあまあ、まあまあ。」
子悪魔様の側は、相変わらず容赦がない。
一応は冷房も入っていたスタジオだったが、
何せ、八月に入ってますますと日中の暑さは半端じゃあなくて。
そこへ、薄手とはいえダウンジャケットだの、
スムースジャージの長袖シャツだの重ね着させられちゃあ。
段取りが悪いという、厭味の一つも零れようというものかも。
ぶうぶうと文句をたれつつ、
それでも 一人でそりゃあ手際よく着替えてしまえるところは
こういう現場にも慣れていてのおサスガな対処であり。
今日はこれで上がりとあって、
此処へ来たときの恰好、
タンクトップとオーバーブラウスの重ね着に、
バミューダ丈の柳楊織りパンツという、
そりゃあ涼しそうないで立ちへと戻った坊や。
「……ん〜っと。」
出演者用の控室だけあって、大きな姿見があるのへと向かい合い、
髪や服をいやに念入りに最終チェックしていたのは、
“…おやや?”
見てくれなんぞにはこだわらぬ彼をようよう知る桜庭には、
もう撮影も済んだってのに?と、
はっきり言ってちょこっと意外な振るまいだったけれど。
「お〜い、済んだのか?」
「…ありゃ、お迎えかい?」
コンコンというノックと共に
ドア越しに聞こえたお声には聞き覚えがあってのこと。
坊やの“おめかしへの点検”にも、あっさりと答えが出た桜庭くん。
切れのある動作でドアまで向かい、
坊やへのお迎えさんを“どうぞ”と室内へ招き入れている。
「ロンドン以来だね、葉柱くん。」
おチビさんたちを引率していた人物でもある
ちょいと恐持ての大学生、
アメフトの方でも顔なじみの彼へと愛想を振れば。
本人が何か言い出す前に、
「あー、思い出さすなよ、それ。」
ルイにはあんまりいい思い出じゃねぇんだからよと、
はきはきとしたお返事が、後方から飛んで来た辺り。
大学生と坊やの、一体どっちが保護者なやらですが。(笑)
仕事はもう済んだから早く帰ろう、さあ帰ろうと、
この暑いのに、そちらさんはバイクの風よけにだろう、
長袖姿の手を取る坊やであり、
「何でお前が仕切るんだ。」
「いいじゃんか。此処は俺の仕事場なんだし。」
それよか、今日は合宿先への搬入の手配とかするんだろ?と、
他のことでも仕切る仕切る…な坊ちゃんであり。
まま、それは今に始まったことでなし。
そんな今更なことよりも、
小さなお手々が捕まえて、
離さんぞと言わんばかりのぎゅうと握った、
お兄さんの腕…だった流れの方が、
桜庭くんには“おややぁ?”と注意を引くことだったようであり。
“この暑いのにって閉口してたのは、どこのどなたやら。”
可愛いもんだよ、うんうんと。
苦笑が絶えないジャリプロのアイドルさんだったが。
そういうところを判りやすい子供らしさと取るか、
いやいや、やっぱり子供離れしてるよなと取るか、
お付き合いの長さで随分と違ってくるんじゃなかろかと。
余計なお世話の感慨を抱いてしまったのは
もーりんだけじゃなかったはずで。
真昼の暑さに閉口したか、
窓のお外はセミさえ鳴かない猛暑の恐ろしさなれど。
アサガオやゴーヤのカーテンが涼しい日陰を作っております。
お若い皆様、瑞々しい馬力でもって、
どうか頑張って乗り切ってくださいませね?
〜Fine〜 12.08.06.
*明日にも立秋ではありますものの、
夏の暑さはこれからが本番。
皆様、気力で乗り切りましょうね?
めーるふぉーむvv
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